菅野貫首写真

今此の妙経は十界皆成佛道なること分明なり
(二乗永不成佛事)

 日蓮聖人三十八才、鎌倉、あるいは静岡県岩本実相寺にておしたためになられたと伝えられ、ご真蹟は身延山に格護されております。このご妙判がどなたにお与えになられたかは不明です。ですが、先月ご紹介申し上げました「守護国家論」において〝全ての人々よ、一時心を息め考えよ〟と呼びかけられたことと併せてお考え頂きますと、守護国家論と同じく、時の若き鎌倉武士、池上ご兄弟、四条金吾等の諸氏であったのではと私は拝察しております。何故かと申しますと原文は漢文体内容も深遠で相当の知識がなければ理解することが無理だからであります。御文でお述べになっておられる「妙経」とは、申すまでもなく妙法蓮華経のことであります。「十界」とは下から地獄界・餓鬼界・畜生界・修羅界・人間界・天上界・声聞界・縁覚界・菩薩界・佛界、十種に区別される人の心の世界のことであります。それぞれについては別の機会述べさせていただきますが、私たちはこの十種の世界を行ったり来たりしているということであります。そうではありますが「皆成佛道」〝みな佛道を成ず〟つまり現在はそれぞれの世界に止っている人でも必ず佛界(佛さまと同じ大安心の境地)に至ることが出来る。そのことを法華経で「分明」あきらかに説きしめしておられる。
 もう一つ、御文の顕れ、これは後世の人がわかりやすくする為におつけしたのでありますが、二種類あります。一つは、ご紹介の「二乗永不成佛事」〝二乗界(声聞界、縁覚界)の人々は永久に成佛することが出来ない〟いま一つは「爾前二乗菩薩不作佛事」〝法華経以前にお説きになられたお経では二乗界の人々は成佛出来ない〟という題名であります。
 この題名でお分かりいただけたと思いますが、今月ご紹介の御文章はつまり声聞界(佛の法を聴いた人)縁覚界(佛と縁のあった人)たちでさえ成佛出来なかった。と言うことを述べられたあとで法華経の方便品第二で智慧第一と言われた舎利弗尊者が成佛の約束を与えられた事実を示されて法華経こそが、お釈迦さまのご真意を伝えているみ教えである。ということを日蓮聖人はこの御文に於てお説きになられるのであります。
 「妙法蓮華経こそが、地獄界から佛界に至るまでの全ての人々が成佛、つまりお釈迦さまと同じ大安心の境地に至ることの出来るみ教えなのである」
 日蓮聖人はこのようにお述べになられて、要は人々よ、あなたご自身、あなたの身の廻りの人々をながめてご覧なさい。地獄の苦しみの人、求めて求めてばかりの人、動物と同じ心になってしまっている人、争うことしかしない人、あれこれ悩んでばかりの人、有頂天になって足もとの定まらない人、沢山見ることが出来る。だから心を止めて法華経の声、南無妙法蓮華経に耳を傾けてごらんなさい。又自らもお唱えしてご覧なさい。必ずや安らぎの境地を知ることが出来るでしょう。
 このようによびかけておられるのであります。


合掌

日彰